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5週間で256枚描いた。名前は0。

2026 3/18

アニメーターの動画マン時代、月に300枚描けと言われた。

動画マンというのは、原画と原画の間を補間する作業をする人間だ。1枚あたり数百円。月300枚で、やっと生活できるかどうか。量を回して枚数で稼ぐ。それがアニメ業界の動画マンという仕事だった。

しかも動画の「1枚」は、目パチでも1枚。口パクでも1枚。簡単なエフェクトの中割りでも1枚。数秒で描けるものも、まるまるキャラクターを動かす中割りも、等しく「1枚」としてカウントされる。そういう世界での月300枚だ。

俺はそれを達成した。月300枚。

で、今。フリーランスの版権イラストレーターになって何年も経つのに、いまだに同じことをやっている。

5週間で256枚の公式イラストを描いた。

動画マンの300枚と、版権イラストの256枚。数字だけ見れば近い。でも中身はまったく違う。動画の1枚は、目パチや口パクなら数秒で終わる。既にある原画のトレスと中割り。設計図は誰かが描いてくれている。版権イラストの1枚は、ゼロからポーズを考え、キャラクターの設定を正確に再現し、影・ハイライト・色トレスまで入れて、監修を通して納品する。目パチ1枚と、フルキャラクターの版権イラスト1枚が、同じ「1枚」であるはずがない。

それを月300枚ペースでやっている。動画マンの単価じゃなく、版権イラストの単価で。誰に頼まれたわけでもなく、発注が来るから描く。描けるから発注が来る。このループが回り続けている。

目次

5週間256点の内訳

正確に言えば、ラフから清書までのフル工程が199点。ラフのみが57点。合計256点。2026年2月9日から3月13日までの、実際の発注書と納品メールに基づいた記録だ。

フル工程(ラフ→監修→清書→納品)の案件だけで10件。点数の内訳はこうなる。

6点、7点、30点、32点、58点、3点、38点、6点、11点、8点。合計199点。

これに加えて、別ルートの案件がある。

32点のラフを翌朝に全点納品。20点のラフを当日納品。5点のラフを納品。こちらは合計57点、すべてラフのみ。

5週間で256点。35日間で割ると、1日あたり約7.3点。休みなしで。実は他にもまだまだあるがそれも含めると果てしなくなるのでそれは省略。

「流石に全ての案件を入れる訳ではないのでご安心ください」

これは発注期間の初めごろ、担当者さんからいただいたメールの一文だ。

安心してください、と。5週間で199点。これが「全てを入れたわけではない」結果だ。

誤解してほしくないのは、担当者さんが悪いわけではないということ。担当者さん自身も「今までないぐらい未確認もしくは確認中」と書いている。止めたくても止められない。構造の問題だ。

ラフだけなら、余裕で捌ける

57点のラフを1〜2日で仕上げている自分がいる。32点を翌朝。20点を当日。

ラフだけなら、この速度で回せる。キャラクターの構造を知り尽くしていて、ポーズの引き出しがあって、監修が通るレベルのラフを一発で出せるからだ。13年やってきた蓄積が、この速度を可能にしている。

でも199点のフル工程は別の話だ。ラフを描いて、監修を待って、修正を反映して、清書して、影・ハイライト・色トレスを入れて、納品する。1点あたりの工数がラフの5倍以上になる。

問題は量じゃない。工程だ。

動画マン時代に学んだことがひとつある。枚数を回すこと自体は、苦じゃない。むしろ得意だ。問題は「何を回すか」だ。動画マンの300枚は、原画という設計図があった上での作業だった。版権イラスト199点のフル工程は、設計図を自分で描いて、自分で施工して、自分で検品に出している。設計も施工もやる必要があるのか、という話だ。

クレジットの話をしよう

256枚描いた。

そのうち、自分の名前がクレジットされるものはいくつあるか。

ゼロだ。

カードゲームの商品パッケージに、イラストレーターの名前は載らない。公式サイトにも載らない。SNSで「このイラストは自分が描きました」と言うこともできない。守秘義務がある。

名前が載る仕事もある。某RPGのリメイク作品では、エンドクレジットに「イラストレーション」として個人名義でクレジットしていただけた。何十時間もプレイした末にスタッフロールに自分の名前が流れてくる。あれは、正直に言って嬉しかった。

でもカードイラスト256枚には、それがない。何百万枚と刷られて、全国のコンビニや量販店に並んで、子どもたちの手に渡る。それだけの数が世に出ているのに、描いた人間の名前はどこにも載らない。

256という数字だけが、自分がここにいた証拠だ。

報われるとは何か

誰かがコンビニでカードを買う。封を開ける。「おっ、かっこいい」と思う。

そのイラストを描いた人間がいることを、買った人は知らない。知る必要もないのかもしれない。でも描いた側は知っている。あの右腕のパースを3回調整したこと。あの剣の歪みを清書で直したこと。あのキャラクターの分け目が左右逆だと指摘されて修正したこと。

256枚の1枚1枚に、そういうやりとりがある。全部覚えている。

報われるかどうかは、正直よくわからない。ただ、この5週間の自分の仕事を数字にしてみて、ひとつだけ確信したことがある。

量で殴るフェーズは、もう終わりにしていい。

次のフェーズへ

256点をフル工程で回すのではなく、ラフに特化して、もっと多くの案件の「絵の方向性を決める人」になる。清書は信頼できる後工程に任せる。自分にしかできない部分——キャラクターの解釈、ポーズの説得力、一発で監修を通すラフの精度——そこに集中する。

13年かけて積み上げた速度と精度は、フル工程で消耗するためのものじゃない。

動画マン時代、月300枚を達成したとき、「これを一生やるのか」と思った。答えはNoだった。だからアニメーターを辞めて、フリーランスのイラストレーターになった。

今、また同じ問いが来ている。「版権イラスト月256枚のフル工程を一生やるのか」。答えは同じだ。

もっと上流で使うためのものだ。

名前が出ない仕事をしている人へ

この記事を読んでいるあなたが、もし同じように「名前が出ない仕事」をしているなら、ひとつだけ言いたい。

自分の仕事を数字にしろ。

感覚で「忙しかった」「大変だった」と言っても、誰にも伝わらない。でも「5週間で256点描いた」と言えば、それは動かない事実になる。交渉の武器になる。自分の価値を証明する根拠になる。

名前が載らなくても、数字は嘘をつかない。

256。これが、2026年の冬から春にかけての、俺の仕事の重さだ。

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