先日、Xでこんなポストが流れてきた。
「誰もが知ってるスーパーアニメタで拘束月230万」
「それ年収2700万ちょい」
「スーパーアニメタならそれ以上の額は貰ってないと夢がない」
業界の人間なら、この数字の意味がわかる。
月230万。年収2700万。「誰もが知ってる」レベルのスーパーアニメーターで、この額。
求められる技術を考えれば億はもらってほしいレベル。
私はイラストレーターだ。
アニメーターとしての技術は、そのスーパーアニメーターに比べたら圧倒的に低い。動きのセンス、作画のスピード、原画の巧さ——どれを取っても敵わない。
でも、収入は私の方が上だ。しかも拘束ではない。すべて歩合制。
これは自慢がしたいんじゃない。
「なぜそうなるのか」を考えたとき、技術とは別の場所に答えがあるという話をしたい。
技術と収入は比例しない
クリエイティブ業界には、根深い幻想がある。
「技術が高ければ稼げる」という幻想だ。
画力を上げれば単価が上がる。
スピードを上げれば仕事が増える。
上手くなれば食えるようになる。
半分は正しい。でも半分は嘘だ。
技術は「入り口」にはなる。最低限の画力がなければ仕事は来ない。
でも、ある水準を超えた先では、技術と収入の相関はどんどん薄くなる。
月230万のスーパーアニメーターと、月100万のアニメーターの画力の差が2.3倍あるかといえば、そんなことはない。むしろ技術的にはほとんど差がなかったりする。
では何が収入を決めるのか。
構造が収入を決める
答えはシンプルだ。
「誰と、どういう契約で、どういう立場で仕事をしているか」。
つまり、構造だ。
アニメーターの多くは、制作会社に拘束されている。
拘束料は月額で決まっていて、どれだけ上手くても、どれだけ速くても、その枠の中でしか収入は動かない。構造的な天井がある。
一方で、私はフリーランスのイラストレーターとして、クライアントと直接契約している。
間に中間業者を挟まない。直接やり取りし、直接納品し、直接交渉する。
この「直接」が、すべてを変える。
中間搾取を排除するということ
クリエイティブ業界には、クリエイターとクライアントの間に何層もの中間業者が入る構造がある。
代理店、プロダクション、マネジメント会社、下請け会社。
それぞれが手数料を取り、クリエイターに届く頃には元の金額の何割かになっている。
私も最初はその構造の中にいた。
中間業者を通して仕事を受け、言われた金額で描いていた。
でも、あるときからその構造を一つずつ解体していった。
クライアントと直接関係を築き、間にいた業者を段階的に外し、自分の仕事の対価が自分にまっすぐ届く回路を作った。
これは技術の話じゃない。
ビジネスの設計の話だ。
信頼が交渉力になる
では、なぜクライアントは中間業者を外して私と直接契約してくれるのか。
答えは、前回と前々回の記事に書いたことと同じだ。
締め切りを守るからだ。
遅れない。待たせない。約束を破らない。
担当者の時間を奪わない。担当者の子どもとの夜を奪わない。
その積み重ねが、信頼になる。
信頼が、交渉力になる。
「この人とは直接やり取りした方が早いし確実だ」
「間に誰かを挟む必要がない」
クライアントがそう判断したとき、中間業者は自然に外れる。
そして直接契約になれば、単価の交渉もできる。
「ラフ1枚いくらにしてほしい」という話を、自分の口でできる。
中間業者が取っていた分が、そのまま自分の収入になる。
技術は手段、信頼は資産
誤解しないでほしいのは、技術を軽視しているわけじゃないということだ。
私は13年以上、鳥山明タッチの再現を専門にしてきた。その技術がなければ、そもそも仕事は来ない。
でも、技術だけでは収入は頭打ちになる。
スーパーアニメーターが月230万で「夢がない」と言われる現実が、それを証明している。
技術は仕事を得るための手段だ。
信頼は収入を上げるための資産だ。
技術を磨くことに時間を使うのは正しい。
でも、信頼を築くことに時間を使わなければ、技術は安く買い叩かれるだけだ。
夢のない業界で、夢を作る方法
スーパーアニメーターが月230万。年収2700万。
それを「夢がない」と嘆くのは簡単だ。
でも、嘆いたところで構造は変わらない。
構造を変えられるのは、構造の外に出た人間だけだ。
締め切りを守る。信頼を積む。直接契約を勝ち取る。中間搾取を排除する。単価を交渉する。
どれも、画力とは関係のない話だ。
でも、収入を決めているのは、この部分だ。
私より絵が上手い人間は、この業界にいくらでもいる。
でも、「絵が上手くて、締め切りを守って、信頼があって、直接交渉できる人間」は、驚くほど少ない。
その「驚くほど少ない」場所に立てるかどうか。
それが技術で負けても金で勝てる理由だし、夢のない業界で自分の夢を作る方法だと、私は思っている。
