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クリエイターのフェーズ

2026 3/04

先日、2冊の本を並べて写真を撮った。

左は、SQUARE ENIX公式アートワーク集。僕の名前がクレジットに載っている本。 右は、子供の頃に穴が開くほど眺めた、ファミコン時代のドラクエ攻略本。鳥山明先生の絵が詰まった、あの本だ。

この2冊を並べた瞬間、自分でも驚くほど静かな感情が湧いた。 嬉しいとか、誇らしいとか、そういう派手な感情じゃない。 もっと深いところで、「ああ、ここまで来たんだな」という、物語が一周した感覚。

クリエイターには4つのフェーズがある。そして自分は今、最後のフェーズにいる。


目次

少年時代の自分に見せたら、たぶん泣く

時間軸を整理すると、こうなる。

少年時代、ドラクエの攻略本を開く。鳥山先生の描くモンスターやキャラクターに心を撃ち抜かれる。「こういう絵を描きたい」と思う。それから何年も何年も描き続ける。そしてある日、ドラゴンクエストの公式イラストレーターになる。スクウェア・エニックスの公式本に、自分の名前が載る。

普通に、物語として完成している。

しかもクレジットを見ると、企業名がずらりと並ぶ中に「ふぇにょん(イラストレーション)」と個人名で載っている。○○株式会社、○○スタジオという法人名の並びの中に、個人名。これはかなり珍しいことだと思う。


クリエイターの4つのフェーズ

長くこの仕事をしてきて、クリエイターには段階があると感じている。 誰もが同じ道を通るわけじゃないけれど、大きく分けるとこういう流れになる。

フェーズ1:食うために描く

駆け出しの頃。選り好みなんてできない。来た仕事はなんでもやる。単価が安くても、ジャンルが違っても、とにかく描く。生活のために描く。この時期は「描ける」というだけで十分な武器になる。私もとにかく来る仕事は愛もない、知らない作品だとしてもほぼ全部引き受け水準以上のクオリティで納品していた。

フェーズ2:実績のために描く

少しずつ仕事が安定してくると、次は「何を描いたか」が重要になる。ポートフォリオに載せられる仕事、名の知れたタイトルへの参加、クオリティの高い案件。自分の市場価値を上げるために、戦略的に仕事を選び始めるフェーズ。

フェーズ3:名前のために描く

実績が積み上がると、今度は「誰が描いたか」が意味を持ち始める。クレジットに名前が載ること、SNSで作品が自分の名前と紐づくこと、業界内で「あの人の絵」と認識されること。ここまで来ると、仕事の選び方も変わる。自分のブランドを育てるフェーズだ。

フェーズ4:意味のある仕事だけをやる

そして最後のフェーズ。ここに来ると、食うには困らない。実績も十分。名前も知られている。そうなったとき、脳はこう問いかけてくる。

「次のモチベーションは何?」

このフェーズでは、仕事を選ぶ基準が根本的に変わる。報酬でも、実績でも、知名度でもない。「この仕事に、自分がやる意味があるか」。それだけが判断基準になる。


僕は今、フェーズ4にいる

正直に書く。

ドラゴンクエスト公式イラストレーター。ドラゴンボール公式イラストレーター。HUNTER×HUNTERウエハースの公式イラスト。鳥山明先生のタッチを受け継ぐ描き手として、第一線で仕事をさせてもらっている。

ありがたいことに、経済的にも不安はない。

この状態で「名前も出ない匿名のカードイラストを量産してください」と言われたとき、心が動くかどうか。正直に言えば、動きにくい。

これは傲慢なんじゃない。フェーズが変わったということだ。

フェーズ1の自分なら、喜んで受けていた。フェーズ2の自分なら、タイトル名だけで引き受けていた。フェーズ3の自分なら、クレジットの有無で判断していた。

でもフェーズ4の自分は、こう考える。

「この仕事をすることで、自分の中に何が残るか?」


2冊の本が教えてくれたこと

あの攻略本を眺めていた少年は、ただ純粋に絵が好きだった。鳥山先生の絵に憧れて、ノートに模写を繰り返していた。そこに戦略なんてなかった。

そして今、公式本に自分の名前が載っている。

この2冊を並べたとき、僕は気づいた。フェーズ4の先にあるものは、実はフェーズ1の気持ちに戻ることなんじゃないかと。

報酬でも、実績でも、名前でもなく、ただ「描きたいから描く」。

子供の頃の自分がそうだったように。


クリエイターへ

もし今あなたがフェーズ1にいるなら、がむしゃらに描いていい。その泥臭い時間は、全部あとで効いてくる。

フェーズ2にいるなら、実績を積み上げろ。選ぶ力は、選ばれた経験の数で磨かれる。

フェーズ3にいるなら、自分の名前を大切にしろ。ブランドは一日では作れないし、一日で壊れることもある。

そしてフェーズ4にたどり着いたなら。

立ち止まって、あの頃の自分を思い出してほしい。なぜ描き始めたのか。何に心を動かされたのか。

答えは、きっとそこにある。


ふぇにょん ドラゴンクエスト / ドラゴンボール / HUNTER×HUNTER 公式イラストレーター

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