Xのタイムラインに、こんな趣旨のポストが流れてきた。
「アニメ業界に限らず、先ずは健康第一。命大事に、仕事していくのがいい」
「スタッフやキャストが命を削らないと手に入らないクオリティなんて、悪魔との取り引きでしょう」
1.4万回以上表示されていて、多くの人がいいねやリポストをしていた。
オレはこのポストを見て、ものすごく共感した。
そして同時に、ずっと自分の中にある「怖さ」を思い出した。
オレが好きな絵描きは、みんな早く死んでいる。
手塚治虫、60歳。
藤子・F・不二雄、62歳。
鳥山明、68歳。
逢坂浩司、44歳。
子どもの頃から憧れてきた人たちが、次々と「まだ早いだろ」という年齢でこの世を去っている。
手塚先生は胃がん。最後の最後まで「仕事をさせてくれ」と病室でペンを握ろうとしていたという話は有名だ。藤子・F先生は肝不全。机に向かったまま意識を失い、そのまま帰らなかった。鳥山先生は急性硬膜下血腫。逢坂さんは癌。44歳なんて、オレの今の年齢とほとんど変わらない。
才能があったから早く死んだわけじゃない。
才能があったから、止まれなかったんだと思う。
「命を削るクオリティ」の正体
クリエイティブの仕事には、独特の中毒性がある。
あと少し、もう一枚、ここだけ直せば——そうやって際限なく自分を注ぎ込めてしまう。しかもそれが「仕事」として求められ、「すごい」と言われ、「感動した」と言ってもらえる。
止まる理由がなくなるんだよ。
でも、身体は有限だ。人間は機械じゃない。睡眠を削ればパフォーマンスが落ちる。食事をおろそかにすれば免疫が落ちる。運動しなければ血管が詰まる。当たり前のことなのに、クリエイターという人種は、そういう当たり前を一番後回しにしがちだ。
冒頭のポストの言葉を借りれば、それは「悪魔との取り引き」に他ならない。
命と引き換えにしたクオリティなんて、本人がいなくなった時点で二度と再現できない。つまり持続不可能だ。どんなに美しい仕事でも、作り手が倒れたら終わる。国宝じゃないんだから、と言い切ったあのポストは、本質を突いていると思う。
鳥山先生も、志村けんも、「健康」を一番に挙げていた
鳥山明先生は生前、集英社の映像企画「ジャンプ流」のインタビューで、大事なものを聞かれてこう答えている。
「一番大事なものは、健康」
漫画の技術でも、才能でも、アイデアでもなく、健康。あの鳥山先生がそう言い切っていたことの重みを、オレはずっと忘れないようにしている。
そしてもうひとり。志村けんさんの舞台「志村魂」には、「先ず健康」という副題がついていた。
日本中を笑わせてきた人が、舞台のタイトルに「先ず健康」と掲げていた。それはきっと、長年エンタメの最前線で身体を酷使してきた人だからこそ出てくる言葉だったんだと思う。
そしてその志村さん自身も、2020年にこの世を去った。
「先ず健康」と掲げた人ですら、健康を守りきれないことがある。
だからこそ、この言葉はただの標語じゃなくて、覚悟として持っておくべきものなんだと思う。
水木しげるだけが長生きした理由
オレが敬愛するクリエイターの中で、唯一「天寿を全うした」と言えるのが水木しげる先生だ。93歳。
水木先生は、とにかく寝た。
漫画家にしては異例なほど睡眠を大事にしていたことで知られている。周囲が徹夜で原稿を上げている中、水木先生は「寝ないとダメだ」と言って寝た。戦争で片腕を失い、南方で死にかけた経験があるからこそ、「生きていること」の価値を身体で知っていたんだと思う。
そして晩年は、好きなものを食べ、好きな場所に行き、好きなように生きていた。
命を削って描くのではなく、命を満たしながら描いた人。
それが93年という時間をくれたんだと、オレは本気で思っている。
オレがやっていること
オレは毎朝走っている。
ダッシュして、筋トレして、高タンパクの食事を摂って、睡眠の質をリングで計測して、体脂肪率を10%前後でキープしている。絵描きとしてはかなり珍しい部類だと思う。
これは「意識が高い」からやっているんじゃない。
怖いからやっている。
好きだった人たちが早く死んでいくのを見てきたからだ。同じ職業で、同じように絵を描いて生きている自分が、何も対策しないまま同じ道を歩くわけにはいかないと思った。
絵の技術を磨くのと同じように、身体にも投資する。
それがオレなりの「先ず健康」だ。
健康は「才能を守るための土台」だ
どんなに絵がうまくても、死んだら描けない。
どんなにいいアイデアがあっても、倒れたら形にできない。
当たり前すぎて誰も言わないけど、健康は才能を世に届けるための「土台」であり、「輸送手段」であり、「電源」だ。電源が落ちたらどんな高性能マシンも動かない。
クリエイターに限らず、すべての仕事をしている人に言えることだと思う。
先ず、健康。
これは精神論じゃなくて、戦略だ。
長く描き続けるために。長く生き続けるために。大事な人との時間を一日でも長く持つために。
命を削るな。命を満たせ。
それが、40歳の絵描きとしての、今のオレの結論だ。
