最近、ある企業から個人的なご依頼をいただき、見積もりを提出しました。
そのやり取りを通して、クリエイターとしての「自分の価値」や「仕事の選び方」について、改めて考える機会があったので、ここに書き残しておこうと思います。
私はありがたいことに現在、国民的な作品や大型プロジェクトにおいて、「公式イラストレーター」として多くの仕事を任せていただいています。
原作者様や版権元様から信頼をいただき、世界中のファンの方々に届く絵を描く。
その責任とプレッシャーは決して軽いものではありませんが、それ以上に、大きな誇りを感じながら仕事をしています。
一方で、長くこの仕事を続けていると、時折こういったご相談をいただくこともあります。
「身内の送別会で使うので、似顔絵を描いてほしい。
公式のあのタッチで。
予算は数万円で。」
その依頼は、
かつて自分が公式の仕事として責任を持って描いた絵を土台にしながら、
まったく別の文脈――
人間関係を円滑にするための私的な用途へ転用するものでした。
その構造に、私は強い違和感を覚えました。
正直に言えば、以前の私であれば「まあ、付き合いもあるし」と引き受けていたかもしれません。
実際、この10年ほどは、そうした形で安価に引き受けてきた経験もあります。
しかし今回は、明確にお断りし、正規のプロフェッショナル価格――これまでの数十倍の金額――を提示しました。
理由は、大きく分けて3つあります。
1. 「公式」の技術は、安売りしていいものではないから
私が預かっている「公式の絵柄」や技術は、私個人だけのものではありません。
偉大な原作者の方々や、長い時間をかけて作品を支えてきた先輩方が築き上げてきた、ブランドそのものです。
それを、公式の実績にもならない個人的な場のために、相場を大きく下回る金額で提供することは、結果的に作品や歴史を軽んじる行為につながってしまう。
そう考えるようになりました。
2. 価値認識のズレを感じたから
依頼をされる方々が、別の場では華やかな会合を開き、高価なものに惜しみなくお金を使っている様子を目にすることもあります。
その一方で、クリエイターの技術や時間に対しては、最小限の予算しか割かれない。
その瞬間、「これは予算の問題ではなく、価値認識の問題なのだ」と、はっきり理解しました。
私の技術が、その方々にとってどの程度の価値として見られているのか。
そこに違和感を覚えた以上、同じ形で仕事を続けることはできませんでした。
3. 本当に大切にすべき場所へ時間を使うため
私には、心から大切にしたい家族や、日々の活動を支えてくれるパートナーがいます。
そして何より、私の絵を楽しみに待ってくれている世界中のファンや、子どもたちがいます。
自分の価値を理解し、敬意を払ってくれる仕事や人のためにこそ、
自分の時間とエネルギーを使うべきだ――そう、改めて決めました。
今回の提示額を見て、相手がどう感じるかは分かりません。
「高くなった」と感じて離れていくのであれば、それまでのご縁だったのでしょう。
ただ一つ確かなのは、私はもう
「安くて上手い、都合のいい絵描き」には戻らない ということです。
公式の仕事を預かる一人の人間として、
これまで積み上げてきたものに恥じない仕事を、これからも私の絵を本当に必要としてくれる場所に、静かに力を注いでいこうと思います。
